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2023年2月20日

日本電信電話株式会社

世界初、100GHz帯域・超小型ベースバンド増幅器ICモジュールの実現に成功
~次世代の高速通信、計測応用を切り拓く技術として期待~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、次世代の超高速光通信を実現に寄与する100GHzの超広帯域性能を持った超小型な増幅器ICモジュールの実現に成功しました。また、DCブロック機能(※1)を内蔵しながらも超小型なサイズを実現していることから、様々なデバイスへの直結が可能となり、ユーザビリティが高く、ケーブルによる損失も大幅に低減可能なモジュール形態となっています。
 本成果は、IOWN(※2)における超高速光通信や、最先端の計測応用を切り拓く技術として期待されます。本成果技術の詳細は、2023年2月16日、IEEE Microwave and Wireless Technology Lettersにオンラインで掲載されました。

図1:従来技術と今回成果の比較 図1:従来技術と今回成果の比較

1.研究の背景

様々なサービスのオンライン化が加速度的に進み、通信トラヒックは増加を続けています。NTTがめざすIOWNの基幹光ネットワークにおいては、将来的に1波長あたり毎秒マルチテラビット(毎秒2テラビット以上)の伝送速度が必要になることが予測されています。このような伝送速度を実現するためには、光送受信器には100GHz級の超広帯域なベースバンド信号(※3)を増幅できるベースバンド増幅器ICモジュールが必要となります。また、先端の研究開発を支える実験・計測器分野においては既にそのニーズが顕在化しつつあり、超広帯域かつ小型な増幅器ICモジュールの要望が高まっている状況です。
 これまでにNTTでは、1mm同軸コネクタ付きの超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールのプロトタイプを実現し、世界初の毎秒2テラビット超の光伝送の実証実験(※4)を進めてきました。しかしながら、これまでのプロトタイプモジュールはサイズが大きいだけでなく、前後のデバイスとの接続に際して外付けのDCブロック部品が必要になるなど、モジュール自体の小型化とユーザビリティ改善が課題として残っていました。

2.研究の成果

今回、NTT独自のインジウム・リン系ヘテロ結合バイポーラトランジスタ(InP HBT)技術(※5)による増幅器ICの高性能化およびパッケージ実装技術の高度化によって、世界で初めて100GHzの超広帯域性能とDCブロック機能集積を両立した超小型な増幅器ICモジュールの実現に成功しました(図1)。

2.1 InP HBT技術による超広帯域ベースバンド増幅器IC

NTTで研究開発を進めてきたInP HBT技術による超広帯域ベースバンド増幅器IC(※6)のさらなる高性能化を図り、ブロードなピーキング特性(高周波側の利得を強調する特性)の実現に成功しました(図2)。このピーキング特性によって、パッケージ実装により生じる高周波信号の損失を補償し、増幅器ICモジュールとしての利得の平坦性(低周波から高周波にかけて一定の増幅率が得られる特性)を担保することが可能となりました。

図2:InP HBT技術によるベースバンド増幅器IC (a)写真 (b)周波数特性 図2:InP HBT技術によるベースバンド増幅器IC (a)写真 (b)周波数特性

2.2 超広帯域・超小型パッケージ実装技術

従来のスレッドオン嵌合型の同軸コネクタではなく、プッシュオン嵌合型の同軸コネクタをインターフェースとして採用し、同軸と内部の高周波基板の接合部の設計に工夫を施すことで、超広帯域特性を担保しながらパッケージの抜本的な小型化を図りました。また、超広帯域特性との両立が困難であったDCブロック機能集積については、精密な高周波設計技術を駆使し、小型な薄層キャパシタを内部の高周波基板上に実装することによって実現しています。これらの技術によって、従来と比べて体積比1/10以下の超小型サイズを達成しながら、100GHz以上の超広帯域特性とDCブロック機能集積の両立に成功しました(図3)。本増幅器ICモジュールによって、シンボルレート(※7)が112ギガボーの超広帯域PAM-4信号(※8)が歪みなく増幅できることを実証しています(図4)。

図3:ベースバンド増幅器ICモジュール(a)構成ブロック図(b)写真(c)周波数特性 図3:ベースバンド増幅器ICモジュール(a)構成ブロック図(b)写真(c)周波数特性

図4:本増幅器ICモジュールによる112ギガボーのPAM-4信号の増幅実験結果 図4:本増幅器ICモジュールによる112ギガボーのPAM-4信号の増幅実験結果

3.今後の展開

本成果について、まずは次世代の超高速光通信や6Gの研究開発を推進する上で重要な役割を担う最先端の実験・計測器応用に向けて早期の実用化をめざしていきます。また、中長期的には、ICおよびパッケージ実装技術のさらなる改善を進め、IOWNにおける超高速光送受信器への適用検討を進めていきます。

【用語解説】

※1DCブロック機能:
信号に含まれる直流(DC)成分を除去する機能。直流動作電圧の異なるデバイスを接続する際に、デバイスの故障や動作不良を避けるために必須となる機能です。

※2IOWN:
NTTニュースリリース 「NTT Technology Report for Smart World: What's IOWN?」の発表について
https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/05/09/190509b.html

※3ベースバンド信号:
通信において送信/受信したい情報そのものの信号のこと。通信ではこのベースバンド信号をキャリア(搬送波)に乗せて伝送する。ベースバンド信号の帯域が広いというのは、伝送できる情報量が多いことを意味する。

※4NTTニュースリリース「世界最高速、1波長あたり毎秒2テラビット超の光伝送実験に成功 ~IOWN/6Gにおけるオールフォトニクス・ネットワークの大容量化・長距離化技術として期待~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/09/22/220922a.html

※5InP系ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(InP HBT):
III-V族半導体のリン化インジウムを用いたヘテロ接合バイポーラトランジスタ。高速性と耐圧に優れるトランジスタです。

※6NTTニュースリリース「世界で最も広い241ギガヘルツの帯域を有する増幅器ICを実現 ~次世代データセンタやBeyond 5G向けの汎用超高速デバイスとして期待~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/06/03/190603b.html

※7シンボルレート:
変調の速度を表し、1秒あたりの変調回数(波形の切り替え回数)を示すもの。112ギガボーの信号は、1秒あたり1120億回の変調がかかった信号を意味する。

※8PAM-4信号:
4レベルのパルス振幅変調(PAM: Pulse Amplitude Modulation)がかかった信号。1シンボルの中に4値の信号状態を割り当てることで、シンボルあたり2ビットの情報を伝送できる変調方式。

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
℡ 046-240-5157

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