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文化(集団・社会~国)

持続可能な社会の実現に向けて、NTTグループではSelf as We  (「われわれ」としての「わたし」)という考え方を掲げています。自分だけでなく周囲の人間もSelfとして考える。人間だけでなく自然も文化もSelfと捉える一「自己」の視点だけでは解決できない社会課題を「利他」の視点を持つことで解決していけるのではないか。特集Team  Self as Weでは、そんな思いを共有し、プロジェクトに取り組む社員たちをご紹介します。今回ご登場いただくのは、ローカル5Gを活用した遠隔農作業支援プロジェクトを推進する、NTT東日本(取材当時)の中西雄大さんです。

「持続可能な地域循環型社会」をテーマに掲げる農業DXのスペシャリスト

東京都・調布市の閑静な住宅街の一画にあるNTTe-City Labo(NTT中央研修センタ)には、最先端のビニールハウスがあります。中に入ると視界に広がるのは、ずらりと並ぶトマトの株。NTTアグリテクノロジーの栽培スタッフが育て、市場に流通している"NTT産"のトマトが、ここで収穫されています。

「このトマト、すごく甘いんですよ。消費者や地元の農協にも高い評価をいただいています」
うれしそうに話すのは、NTT東日本の中西さん。IoTサービス開発の担当部署に在籍したことがきっかけで、農業DXの世界へ。農業×ICTの専門会社・NTTアグリテクノロジーの立ち上げに関わるなど、今ではすっかり"農業の人"です。
NTT東日本では、持続可能な地域循環型社会の実現に向けて、さまざまなプロジェクトを実施しています。AI、IoT、ドローンなど ICTを活用したスマート農業の支援もその中の1つ。
「農業は地域の基幹産業であることが多い一方で、農産物の大部分を輸入に頼っているのが実情です。サプライチェーンリスクの問題もあり、最近でこそ食料自給率を上げていくことの重要性が再認識されましたが、これは長年の課題。そこには農業従事者の高齢化や担い手不足など、さまざまな問題があります。それらをITの事業者として解決することができないかというのが、私たちの出発点です」(中西雄大、以下同)

ローカル5Gのトマト農園が実証した遠隔農業支援の可能性

その中西さんがトマト栽培をするきっかけとなったのは、彼のもとに送られてきた1通のメールでした。
「東京都の農林水産部からのメールで、『スマート農業を推進するにあたってAIやIoTの活用を進めたいが、具体的にどのような取り組みがよいのか教えてほしい』と。1人で都庁に行ったら、15人くらいの職員の方がいらっしゃって。そこでスマート農業の事例や口ーカル5Gについてお話ししました」
農林水産部は東京都の農業課題の解決をミッションとした組織。職員の方と話すうちに、中西さんは東京都が抱える農業の課題について知ることになります。

「東京都には、多摩エリアなど西域を中心に5000ほどの農業経営体があります。東京は最大の消費地でもありますから、生産性が上がれば新鮮な作物を提供できるのはもちろん、輸送時のCO2排出量が少なくて済む。東京の農業には大きな強みがあるんです。
しかし、現状では他の多くの地域と同じように農業従事者や生産者を支える指導員が高齢化し、後継者の育成が間に合わない状況にありました」
この課題に向き合い、中西さんが出した答えは、新規就農者や新しい品種にチャレンジする生産者を効率的にサポートする仕組みを作ること。つまり、指導員の業務効率化や指導の高品質化でした。
「東京の農地は広く分散していて、指導員が一軒ずつレクチャーして回るのは大変です。そこで、5G通信を利用した4Kカメラやスマートグラス、遠隔操作ロボットを活用すれば、生育状況などの高解像度の映像データを指導員とリアルタイムに共有しながら遠隔農業支援が行えるんじゃないかと」
こうして2020年4月、NTT東日本、NTTアグリテクノロジ一、東京都農林水産振興財団の三者による連携協定が締結されました。東京都発でスマート農業の新しいビジネスモデルを作っていくことが目的です。
「最初話をしたとき、指導員たちに『映像で指導するのは無理でしょう』と言われました。でも実際に4Kカメラの高精細の映像を見てもらうと、ズームにすれば小さな虫まで判別できるし、ちょっとした変化も確認することができた。『これならいけるかもしれない』となったんです」
指導員たちの協力を得て、遠隔農作業支援プロジェクトが始動します。試験圃場(ほじょう)としてNTT中央研修センタ敷地内にビニールハウスを建設して、遠隔からのプロの指導の下、NTTアグリテクノロジーの"農業未経験者''のメンバーでトマトの栽培を始めたのです。その品質は前述の通り。その成果が評価され、現在、実際の農家に普及・実装させていくための検討が進んでいます。

地元小学生からの「農業をやってみたい!」の声

このプロジェクトで収穫したトマトは、地産地消で市内の小学校にも給食として提供しています。また、自分たちが食べたトマトがどのように栽培されたのかを知るために、80名の地元小学生が校外学習で見学に来るなど、食育コンテンツとしても活用されています。

「早い段階でスマート農業の存在を知ってもらう、いい機会になっています。日本では、まだまだ厳しい産業というイメージが強い農業ですが、例えばスマート農業先進国のオランダでは、農業はかっこいい、しかも、もうかる職業として人気ランキングに入るくらいなんです。
今回の校外学習では、児童に説明した後、『農業をやってみたいと思った人?』と聞くと、クラスの半数近くの子が手を挙げてくれました。また先日は、都内の中学生が『スマート農業に興味があるので見学をさせてほしい』と会社に直接電話をくれたんですよ。うれしかったですね」
こうした未来の担い手に、確かな将来性を確保するためには、農業を収益の上がる、もうかるものにしなくてはなりません。中西さんは今後の展望としてサプライチェーン全体の最適化を掲げます。
「もうかる仕組みを作るには、「消費者」に向けて「生産価値」を流通させる仕組みづくりをする必要があります。そのために、川上から川下まで横串でデータを駆動させ、サプライチェーン全体の最適化にも関わっていきたいと考えています」

共存共栄の文化をテクノロジーで未来へつなぐ

自治体、農家、農協、学校などをつなぐ地域のハブ的役割を担ってプロジェクトを進める中西さん。彼の農業に対する考え方を変えたのは、スマート農業に携わるようになって最初に担当した、山梨のぶどう農家とのIoTのプロジェクトでした。
「地域が一体となってぶどう栽培に取り組む農家の皆さんの姿勢が、非常に印象的でした。普通、ビジネスでは自分以外の生産者はライバルですよね。でも、農家の皆さんはIoTで自分のノウハウが他の農家に共有されることにとても前向きだった。むしろ自分の技術や成果を周囲にシェアして全体の品質を上げることが、地域のブランディングにつながり、最終的に自分の利益になって戻ってくるという考えなんです。農家は、受け継ぎ、後世に残していくべき「文化」なんですね。
私は、農業という文化の伝承をテクノロジーの力でサポートしたい。それは長年、地域に根を張ってきたNTT東日本の社員だからこそできることだと思っています」