近年目覚ましい発展を続けているインド。しかし、まだ経済的に不安定な側面があるほか、文化的な背景から男女の格差が根強く残っています。そのため、女性に対する教育の優先順位は低く、66%は適切な教育を受けられていません。特に貧困家庭においてその傾向は強く、満足な教育を受けることなく、早期結婚のために学校を中退したり、家事の手伝いや早期就職に追い込まれたりすることが当たり前とされてきました。
そこで2017年、NTT Ltd.はインド第2の大都市であるムンバイにおいて、「学ぶ権利」を確立するため、貧困家庭で暮らす少女に対して、将来の就職を見据えた教育や能力開発を公立学校で提供する取組みを開始しました。このプロジェクトを牽引するのがNTT India Private Limitedでサステナビリティ・ダイバーシティのシニアマネージャーをしているChitralekha Kalmadyさんです。
「私たちは学校のインフラを整備するためにコンピューターラボや科学ラボ、図書館を建設するほか、栄養価の高い給食の提供や、清潔な冷たい水が飲めるようにしました。さらに、歯科衛生教育や医療カウンセリング、キャリアカウンセリングなども実施しました。また物理的な面だけでなく、デジタル学習セッションや継続的なエンゲージメント活動、インクルージョンの一環としてお祭りや特別な日も一緒に祝う体験を重ねることによって、彼らの自己肯定感を高め、尊敬されていると感じられるようにしました。
これらの活動は彼女たちが高等教育をきちんと受けられるようにするためには、彼女たちの健康を身体的にも精神的にも支援する必要があると考えたからです」(Chitralekha Kalmady、以下同)
NTT Ltd.ではサステナビリティの柱の一つとして「つながるコミュニティ」を掲げています。このプロジェクトはNTTグループが持つテクノロジーを活用し、恵まれない少女たちが教育を受け、能力を身につけられるよう支援する取組みですが、少女たち本人だけでなく、その家族、さらには地域社会も含めて、持続可能な暮らしの実現を目標にしています。また、この取組みはNTTグループが賛同するSDGsの達成にもつながっています。17個ある国際目標7つに触れており、その中でも特に「1:貧困をなくそう」、「4:質の高い教育をみんなに」、「5:ジェンダー平等を実現しよう」に深く関わっています。
以前からインド政府は公立学校に対する支援を行っており、学費は補助されていました。しかし、それでもスラム地域に住む低所得層の世帯にとって、女子を学校に通わせることは負担になります。そのため中退率が高いことが課題でした。
「私たちが2017年から開始した取組みを通じて、次のような効果が出ています。学校の卒業率は100%、そのうち95%の少女が大学に入学しています。また1100人以上がコンピューターに精通し、コンピューターラボの稼働時間が合計34000時間を超え、コンピューター教室の日には96%以上が出席するなど、その結果、中退率が5%未満に減少しました」
NTTとして提供できる価値が、少女たちの「将来のために学びたい」という気持ちと合致していることがうかがえます。
また取組みの一つとして、少女たちがこの学校を卒業した後、仕事を手に入れやすくなるように、英会話習得のためのデジタル学習ラボも設置したそうです。普段ヒンディー語を話す少女たちが、流暢に英語を話せるようになること、そして英語を話せることへの自信をつけてもらうことが目的です。
「デジタル学習ラボを利用した女子学生がNTT India Private Limitedに正社員として採用されました。彼女の例は、きちんと教育を受けられる環境があれば、雇用機会が生まれ、長期的な成長への道を開くことができるということを証明するロールモデルと言えます」
なお、少女たちの教育だけではなく、教員の育成にも取り組んでいるそうです。一般的な教員養成プログラムに始まり、そこから一歩進んで、女子児童を教育するスキルを教員に身につけてもらうことで、本プロジェクトにおける教育品質の底上げを図っているのです。
本プロジェクトはNTTグループ内でも高い評価を受けています。2020年2月に東京で開催されたNTTグループCSR会議ではKalmady さんがプレゼンテーションを行い、「2020年ベストCSRプロジェクト」に選出されたのです。Kalmadyさんは、NTTという組織内に賛同を生み出すことも重要だと言います。
「社会から取り残されてしまったコミュニティの少女たちを、もっともっと救いたいですね。今はまだムンバイにある一つの学校での取組みですが、インドに住む全ての少女に質の高い教育を提供し、夢をかなえるための翼を授けるために、今後もこの活動を継続していきます。そのためには、インドに暮らす少女やその家族はもちろん、私たちと一緒にプロジェクトを推進する人をもっと巻き込んでいく必要があります。"When you educate a girl, you educate a nation. (女を教育するときは、国を教育する)"という昔のことわざがありますが、NTTグループは大規模な企業だからこそ、社会を動かすほどの大きなインパクトを与えることができ、格差のない社会の実現に貢献できると考えています」
本プロジェクトによって学校に通えるようになったある少女からは「NTTは単なる大企業ではありません。大きな心を持った人でいっぱいの場所です。もし機会があれば私たちの学校に多大な支援をしてくれたNTTでいつか働いてみたいです。そんな未来にわくわくしています」というメッセージが寄せられています。
インフラを整備し、教育機会を与えることで、少女たちが持つ能力を伸ばすことができるのはもちろんですが、大きな企業を身近に感じる中で、自分自身も将来グローバル企業で働けるかもしれないという夢を与えられていることも、大きな成果だとKalmadyさんは考えています。
「私は、必要な教育課程を最後まで修了する機会が少女たちにも平等に与えられている社会を見てみたいです。そして、少女という存在が、家族を支える支援者として扱われるようになってほしいです」
「"Self"は、スキルや能力、意図、野心を持つために重要な要素ですが、それを一人一人が持つことを可能にしているのは、より大きく、より強力な"We"の力だと感じています。そして、自分自身とその周りで起こる全てのことに"Wellness"があることに改めて感謝しています」
ビジネスエコシステムの実現、先輩や同僚のサポートやメンターシップ、校長や教員の意欲、インド社会が抱える課題にスポットライトを当てて世界に発信できるNTTグループの認知度、そして少女たちの想い。全ての力が結集し、このプロジェクトは社会的意義のある活動として実現可能になったと、Kalmadyさんは言います。
また、「Self as We」について考えれば考えるほど、本プロジェクトだけでなく、これまでに自分が携わってきた全ての仕事において、計画やアイデアを設計して実行するのを助けてくれた「We」の力を理解し、感謝するようになったそうです。
「私はNTTグループの一員であり、少女たちの人生を変えるプロジェクトに取り組んでいることを、とても誇りに思っています。NTT内の志を同じくする仲間と連携し、この取組みをより大きな成功につなげていきたいです。また、NTTグループでは、サステナビリティを推進するさまざまな活動をグローバルに行っていますが、このプロジェクトがそれらにとって意義のあるインプットになると考えています。私たちの強みは、全てが相互接続されていて、世界中のベストプラクティスを共有できることです」
Kalmadyさんは"We"を広げ、グローバルレベルで持続可能な暮らしの実現に貢献していくことをめざしています。
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