男女の違いによる格差の大きさを示す「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は146カ国中125位(2023年・世界経済フォーラム)。SDGsが5番目に掲げる目標「ジェンダー平等を実現しよう」の達成には程遠いのが現状です。NTTドコモの管理職女性比率は 11%、正社員の女性比率は21%(いずれも2022年8月時点)。日本の人口の男女比はほぼ同数であるにも関わらず、女性社員は少数者に置かれているという現実があります。そうした中、女性社員のエンパワーメントを支援しているのが、NTTドコモの職場公認サークル「LEAN IN DOCOMO」です。
LEAN INとは「一歩踏み出す」という意味で、Facebook社で初の女性役員となったシェリル・サンドバーグ氏の著書『LEAN IN(リーン・イン) :女性、仕事、リーダーヘの意欲』からその理念が世界中に広がり、国内外でたくさんのLEAN INサークルが生まれました。LEAN IN DOCOMOの活動について、サークル立ち上げメンバーの齋藤真希さんは次のように語ります。
「『NTTドコモグループの女性が自信・勇気・志を持ち、一歩踏み出すきっかけをつくる』をミッションとして、2018年から有志で活動を開始しました。女性たちが自分らしく自分のキャリアを進んでいくために、一歩踏み出す場を提供しています」(齋藤真希、以下齋藤)
立ち上げの背景には、「ジェンダーバイアス(先入観・偏見)に起因する『モヤモヤ』がありました」と語る齋藤さん。齋藤さんの場合は出産後の働き方でした。
「第一子出産後、『お母さんなりの働き方』になってしまったんです。自分やパートナーの中に『母親が育児をするべき』という無意識のバイアスがあり、ワンオペ育児で仕事はセーブせざるを得ませんでした。時短勤務で業務時間が短いため、経験値の上がるチャレンジングな仕事は任せられない···。復職直後は配慮をありがたく思ったものの、仕事が好きだった私は徐々にモヤモヤしてしまい、このままやり甲斐もなく年を取って行くのかと鬱々としていました」
モヤモヤした状態から一歩踏み出そうと、NTTドコモのダイバーシティ推進ワーキンググループ(以下、WG)に志願。そこで、山近祐加子さんと出会ったことでLEAN IN DOCOMOが動き出します。
「モヤモヤを共有するランチ会を開催してみたところ、たくさんの女性たちが来てくれました。『モヤモヤしているのは自分たちだけじゃないんだ!』と驚いたのを覚えています。このつながりをWGの任期1年限りで終わらせたらもったいないと考え、『サークルにしたい』と、ダイバーシティ推進室に相談し、強いサポートを得られてLEAN IN DOCOMOがスタートしました」(齋藤)
LEAN IN DOCOMOの活動について、立ち上げメンバーの山近さんは次のように語ります。
「イベントや講演会の企画など活動内容は多岐にわたりますが、『私たちがやりたいこと、楽しいことをやる』という点にこだわっています。それは、楽しそうな場所に人が集まると考えているからです。自分たちがワクワクすることをやり続けていたら、いつしか仲間が増えていきました」(山近祐加子、以下山近)
活動で特に力を入れているのが「ピアメンタリング」。これは、参加者同士が本音で話せて励まし合える「濃い仲間」をつくるための活動です。参加メンバーが少人数のグループを組み、3カ月間、定期的にリモートで対話を重ねていきます。業務でつながりがある相手だと話しにくいこともある、という配慮から、あえて初対面同士でグループを組むそうです。
「これまで3期のピアメンタリングを実施して『悩みを相談できる仲間ができた』とか『話すことで視野が広がり、新しいチャレンジに一歩踏み出せた』といった声を聞くことができました。とても嬉しく思っています」(山近)
九州支社所属の山田奈津子さんは、ピアメンタリングがLEAN IN DOCOMO参加のきっかけでした。
「私は本社(東京)で働いていた経験があり、地域会社に戻った際に子育て中の女性という属性で強く配慮される働き方にモヤモヤしていました。また、グループ会社へ出向し、同じようなモヤモヤを抱えた人がいない環境で、誰かにこのモヤモヤをわかってほしいと感じていました。そんな中、ピアメンタリングで本社の人々と違和感を共感でき『この違和感は私だけじゃなかった』と安心した記憶があります。ピアメンタリングには『秘密を守る』というグランドルールがあります。そこで話したことは、その場限り。だから安心して悩みを打ち明けられました」(山田奈津子、以下山田)
LEAN IN DOCOMOでは、当事者同士が互いを励まし合いながら広がっていく「草の根活動」と共に、幹部社員と直接対話する機会をつくり、現場の生の声を経営層にも伝えているそうです。
持株会社 廣井孝史副社長(中央)とLEAN IN DOCOMOのメンバー
さらに、社外のLEAN INサークルやNPO法人などとも連携しながら活動しています。その一例として、NTTドコモで得たスキルを活かしてボランティアで参画した「Technovation Girls」があります。
「『Technovation Girls』は、米国のNPOが主催する世界100カ国以上の女子・ジェンダーマイノリティ中高生による、SDGs関連アプリ&ビジネス開発のコンテストです。そこでアプリ開発に取り組む中高生を、ビジネスメンターという立場からサポートしました。
役に立ちたいという想いで参加したのですが、すごいパワーとモチベーションで課題に向き合う中高生から、逆に私たちが刺激と勇気をもらいました」(山田)
金井佳英さんはLEAN IN DOCOMOには「もう一つ大切なグランドルールがある」と語ります。
「大切なことは『多様な価値観を、否定せずに受け止める』こと。『女性たち』と一括りで語られがちですが、同じ女性でも価値観や意見はさまざまです。自分と異なる考えも一旦受け止めて、みんなが安心して話せる場を保ちたいですね」(金井佳英、以下金井)
女性の中にもダイバーシティがあり、LEAN IN DOCOMOのメンバーもまた多様です。例えば齋藤さんは、出産後も責任ある仕事へのチャレンジを志向していたのに対し、金井さんは元々、ワークライフの「ライフ」を充実させたいタイプ。
「仕事にやりがいを感じにくく、育児という名目ができたことを、むしろありがたく思っていました。2人目の育休中に育休コミュニティに所属したことで、キャリアに対する意識が変わり、意欲をもって復職したものの、仕事でやりたいことを見つけられず、モヤモヤしていました」(金井)
金井さんがモヤモヤから抜け出せたのは「仲間とつながることで、世界が広がった」からだそうです。金井さんは今、所属部署とダイバーシティ推進室とのダブルワークに打ち込んでいます。
「復職後、自分の体験が誰かの役に立てればと思い、WGに1年間参加しました。WGは『自分はこういう仕事をしていきたい』と心から思える体験でした。女性社員が抱える課題やモヤモヤを、少しでも解消できるきっかけをつくり出す、それを『ダブルワークでもやってみたら』と言ってくれたのが齋藤さんです。ワークの割合が増えてライフの時間が減るのではという懸念や、上司から理解を得られるかの不安がありましたが、一方で『新しいチャレンジをしてみたい』というワクワクも感じました。その気持ちを後押ししてくれたことが、一歩踏み出す勇気になりました。それが私の『LEAN IN』です。だから私も誰かが一歩を踏み出すお手伝いをしたいと思います」(金井)
「女性は過分な配慮からチャレンジングな機会をもらいづらく、経験値が低いために自信がない傾向があります。でも、やったことがないから、自信がないから、と自分の可能性を制限する必要はないんです。私たちには無限の可能性があります!」(齋藤)
現在、LEAN IN DOCOMOのSlack参加メンバーは、341名(2023年5月末時点)。当初は女性メンバーだけでしたが、男性メンバーも70名を超えているそうです。
「ジェンダーというテーマは決して、女性と男性を対立させるものではありません。男性は仕事で、女性は家庭で重責を負って苦しみがち。ジェンダーの不平等という社会課題は女性も男性も当事者であり、一緒に解決していく仲間です」(齋藤)
LEAN IN DOCOMOでは定期的にイベントを開催。リモートでもたくさんのメンバーが参加
「みんながそれぞれ一歩ずつ前に進むことで、世の中を少しずつ良くしていきたい」と話すLEAN IN DOCOMOの4人。NTTグループが提唱する、持続可能でより良い社会を実現するための考え方、「Self as We=『われわれ』としての『わたし』」についてはどう捉えているでしょうか。
「『Self as We』とは、私たちの活動そのものだと思います。例えば、ここにいる4人には、『キャリアに猛烈にモヤモヤした』ことや『モヤモヤから抜け出して自分の力を取り戻した』経験があります。その経験を自分だけで終わらせないように、『私のことはみんなのこと』との意思で活動を続けてきました。そして、私たちが一歩踏み出したら、会社も味方になってくれました。それが『私たちも会社の役に立てる』との自信が芽生えるきっかけになりました。NTTドコモという会社をみんなが自分らしく働ける場所にしたい。そこから生まれるサービスが世の中を幸せにする。私たちの活動が、それにつながると信じています」(山近)
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