株式会社NTTドコモ インサイトマーケティング エリアマーケティング部(取材当時)
浅野 礼子/加藤 美奈
毎日の通勤・通学、買い物、レジャーなど、社会は人々が動くことによって成り立っているといっても過言ではないでしょう。休日に行楽地が混雑する、コロナ禍でビジネス街から人がいなくなるなど、「人流」といわれる人の動きは、経済や暮らしと密接に関わっています。
「社会も経済も人の動きと深く紐づいています。よって、人の動きを『見える化』することのできる『モバイル空間統計』は、社会全体を支える基盤として必要不可欠な技術になると思っているんです」(加藤 美奈、以下加藤)
ドコモ・インサイトマーケティングでは、NTTドコモの携帯電話のつながる仕組みを利用して、取得された運用データをもとに人口を推計した「モバイル空間統計」を展開しています。携帯電話はいつでもどこでも持ち歩くもの。そのため、基地局経由でエリア内の携帯電話の存在を把握することで、全国の人の動きをリアルタイムで可視化できるのです。
「人の動きをデータ分析することで、学校・病院の配置や電車・バスの運行計画など、暮らしやすいまちづくりに活かすこともできます。また、観光振興のために訪日外国人旅行客が日本でどのような旅程をたどっていくかを分析する、新規出店のための商圏調査、さらには広告のプランニングや効果測定にも使われます。モバイル空間統計は業種を越えて、中小企業・大企業・行政まで、さまざまな用途でご利用いただいているサービスです」(浅野 礼子、以下浅野)
まちづくりからマーケティングまで、さまざまなシーンで活躍するモバイル空間統計。その根底にあるのは「社会貢献」だと浅野さん・加藤さんは語ります。新型コロナウイルス感染症の拡大により、モバイル空間統計のメンバーはさらに強く再認識しました。
「2020年4月の最初の緊急事態宣言の発令で、多くの人が外出を制限されることになりました。私たちにできることは何だろう。そう考えたときに、正しいデータを国民に届けることだと思ったんです。
当時、感染予防のために『密』を回避しなければならない状況で、リアルタイムに特定の場所の混雑状況が分かるモバイル空間統計を使いたいと、昼夜問わずメディアから問い合わせをいただいていました。問い合わせに一つ一つ対応していくには無理がありました。また一方で、メディアの色の付いていない中立な立場での情報も必要だと感じていました。
そこで、誰でも見られる場所に『モバイル空間統計』を公開し国民一人一人にお届けしたいと考えました。混雑状況をヒートマップで可視化した人口マップを開発して、無償で一般公開することにしました」(浅野)
コロナ禍でメンバーも出社を制限されている状況の中、人口マップの開発は約1カ月という短い期間で行われました。
「当時はとにかくスピードが求められていました。スピード感を持って開発を進めながら、いかに皆さんにきちんと使っていただけるサービスにするか、そのバランスが難しいところでした。全国の中でも主要なエリアは詳細な属性まで見ることのできるのですが、そのエリアをどういう基準で決めるのか、どこまでのデータを掲載するのか」(加藤)
モバイル空間統計が提供した人口マップ。時間やエリアごとに人の疎密が把握できる
モバイル空間統計がリリースした人口マップは、サイトに訪れた人に加え、さまざまなメディアに取り上げられ、瞬く間に広がっていきました。浅野さん・加藤さんたちプロジェクトメンバーのもとにも多くの反響が寄せられます。
「テレビや新聞などのメディアを見た友人から連絡が来たりもしました。また、今回の取り組みはこれまで私たちが有料でご提供していたデータを無料で公開するというものでした。『今こそ社会貢献すべき』ということでチームの意見はすぐにまとまりましたが、そのことを『ドコモさんしかできないことだよね』と、クライアント企業からも褒めていただいたのはうれしかったですね」(浅野)
約8500万人分のデータ処理、コロナ禍でのプロダクト開発など、モバイル空間統計の裏にはNTTドコモの確かな技術力があります。その技術力を活かして、日々進化し続けるモバイル空間統計を届けることで社会に貢献する。それが浅野さん・加藤さんのモチベーションになっているそうです。
「モバイル空間統計としてサービスを提供するためには、利用者の皆さんの個人情報を消去したり、通信データを人口に計算し直したり、1日100GBものデータを高速で処理しなくてはなりません。
これを可能にしたのはNTTドコモの研究所による長年の研究の成果です。そこにはさまざまな研究者の思いが込められているんです。利用者の方には普段は目に見えないかもしれないけれど、裏方で関わるさまざまな人々の思いをくんで、社会に貢献したいという思いで取り組んでいます。
そうやってできたモバイル空間統計というサービスをお客さまにお届けするために、私たちも努力しなければなりません。さらには、さまざまな業界の方にモバイル空間統計をご活用いただき、お客さまのデータや技術と組み合わせることで、また新しい価値を社会に提供していければと思います」(加藤)
「もともと、モバイル空間統計は社会課題の解決に貢献できると、関わっているメンバー皆が信じていました。だから、コロナ禍の中で何か社会のために動こうとしたのは自然な流れでした。営業メンバーも、技術系のメンバーも、本当にモバイル空間統計に誇りを持っているんです。
私自身、コロナ禍での取り組みを通じて、より自分の仕事に胸を張れるようになりました。よく息子たちに『自分のことを信じてね』と伝えることがありますが、今まさに自分のことを信じて楽しく働けているんです。なんだか自分の人生も輝きが増したように思えます」(浅野)
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