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アフリカでドローンを利用した医療サプライチェーンを構築

NTT DATA Business Solutions(取材当時) 

アイシャ・イシンギアー

マラウイの医療物資供給の課題解決に挑戦

アフリカ大陸の南東部にあるマラウイ共和国では、貧弱な輸送インフラや頻発する洪水などの影響を受け、医療物資の輸送に多くの問題を抱えていました。この課題を解決するため、NTT DATA BSはドイツの航空宇宙企業Wingcopter社と協力し、ドローンを利用した医療用品のサプライチェーンを構築しました。このプロジェクトを牽引したのが、NTT DATA BS 産業・ライン管理担当グローバルヘッドのアイシャ・イシンギアーさんです。

「以前は医療センターから地方のクリニックまでの医療物資輸送には、一日以上かかっていました。足場の悪い土地などは歩いて運ぶしかなかったからです。しかし、このプロジェクトにより、Wingcopter社のドローンを使って100種類以上の医療品を短時間で配送できるようになりました。配達時間は従来の一日から約20分と大幅に短縮され、呼吸困難に苦しむ新生児に呼吸チューブを届けるなど、緊急時の迅速な対応が可能になり、命をつなぎました」(アイシャ・イシンギアー、以下同)

この配送サービスは、医療物資を届けるだけでなく、地元の若者をドローンパイロットとして育成したり、技術者として教育したりすることで、新たな就業機会も生み出しています。命の救出と雇用の創出という二つの側面で社会課題の解決に大きく頁献しています。
また、今後は食料配送も含めたサービスの展開を構想しています。

救える命を救うため、スタートアップ企業を支援

マラウイでの医療物資調達を困難にしていたのは、配送インフラの不備に加え、医療物資調達のプロセスが確立できていないことも要因でした。

「調達プロセスのデジタル化も進んでおらず、注文は手書きでオーダーブックに記入し、全施設センターへメッセージアプリを使い、写真を送付しなければならない状況でした。多くの医療ニーズに迅速に対応するためには、さらなる効率化を図らなければ、救える命が救えなくなると危機感を覚えました」

課題解決の可能性を秘めていたのが、航空宇宙企業Wingcopter社の固定翼ドローン「Wingcopter」でした。このドローンは飛行距離や積載効率に優れ、迅速かつ持続可能な物資配送を実現できるものでした。
しかし、スタートアップであるWingcopter社は必要なリソースが不足している段階にありました。

そこでNTT DATA BSは、ソフトウエア企業SAP SE社が提供するクラウドERP「SAP S/4HANAクラウド」を導入し、プロジェクトを支援することを決めました。アイシャさんのチームは、スピーディーなクラウド導入に尽力し、Wingcopter社がビジネスプロセスをデジタル化できるようにしました。財務的側面に始まり、注文から物資の調達、配送、全体管理に至るまでのプロセスをデジタル化することに貢献し、サプライチェーンの構築に着手しました。

現在ドイツのヴァイターシュタットにあるWingcopter社の工場では、SAP S/4HANA プライベートクラウドエディションを使用してドローンの生産が行われています。マラウイでは、ドローン配送プラットフォームの最初のモデル(MVP)が実装され、注文処理、飛行計画、ドローンや機材、配送地点、ドローンパイロットの管理が行われています。Wingcopter社は、マラウイでの医療用品サプライチェーンに加え、ドローンによるさまざまな物資の配送サービスをさらに拡充するためのビジネス開発にも注力しています。

「NTT DATA BSは、Wingcopter社がドローンを使ってさらに多くのエリアでさまざまな物資を供給するための基盤拡大の支援を行っています」

アイシャさんは現在、Wingcopter社の経済面とサステナブルな社会的影響の両面から、将来のビジネス展開に関するアドバイスを行っています。

ドローンで届いた医薬品を取り出す医療スタッフ

ドローンパイロットがモニターで操縦を確認

「Wingcopter社は、ドローンを使った医療物資のサプライチェーン事業をマラウイで開始しました。そして、このサービスとテクノロジーがマラウイでどのように人々の命を救い、雇用を創出するのかを検証することができました。良い技術やアイデアを持っていたとしても、資金調達から在庫管理、配送、全体管理の一連のプロセスを効率化しなければ、この医療物流の課題を解決することは難しかったでしょう。プロジェクトを成功に導く手伝いができたことを誇らしく思います。このサービスと技術は、他の国や他のビジネスエリアでもスケールアップして展開できる可能性があると確信しています。将来的に、NTT DATA BSとWingcopter社は、マラウイのように交通手段を喪失しやすい他の地域でも、ドローンを使った新しい物流の交通網を空に作り出し、地域社会と持続可能な社会実現に貢献していきたいです」

持続可能な未来をめざすための重要な一歩

これまでの取組みについて、アイシャさんはこう語ります。

「このプロジェクトは、私たちNTT DATA BSが高い専門性とテクノロジーを活用し、持続可能な未来をめざしていく重要な一歩だと考えています。NTTグループはさまざまな領域で幅広いビジネスを展開していますが、社員一人ひとりが団結し、迅速に行動する必要があります。そうでなければ、将来や次世代の子どもたちの未来が脅かされる危険性があるからです」

今後は気候変動、循環型社会、社会的責任などの分野でも、クライアントや社会に影響を与え続けていきたいとアイシャさんは考えています。

「私たちの専門知識を最大限に活用し、既存のソリューションをさらに改善して、新しい価値を生み出すことに熱意を感じています。
技術やプロセスを通じてパートナー会社のビジネスと将来の成長をサポートし、共に世界をより良い場所にすることが、私たちの目標です」

アイシャさんはプロジェクトを通じて、テクノロジー、サステナビリティ、社会的インパクトにおける新たな視点を得ることができたといいます。

「革新的なスタートアップと協働し、ポジティブな変化を起こすために、環境に適応して柔軟に行動することの重要性、課題に対してグローバルな視野で取り組む必要性を改めて認識しました」

「私たちは、多様性と持続可能性に対する取組みを通して"Self as We"のコンセプトを深めてきました。自分たちの強みを活かして共創することで、持続可能な地球とWell-beingな社会に貢献する機会を得ることができました。この取組みは"Self as We"の理念や脱炭素社会という目標に合致していると考えています」

サステナビリティヘの認識を高めるために、約2年半前から取り組んできたといいます。

「始めはビジネスの視点からこの新しい領域への投資を社内に納得させるのは容易ではありませんでしたが、市場での収益増加や新しいビジネスモデルの可能性を強調して説明しました」

社内でアイデアを募り、優れたアイデアに投票するコンテストを開催したところ、他の社員からの関心度も高く、多くの意見やアイデアが集まったといいます。

「その関心の高さが、私たちが周囲の人々を巻き込むための取組みが正しい方向に進んでいると確信させてくれました」と振り返ります。
「私たちの専門知識を集結させ、データと技術の力を活用して、多くの人々の生活の質の向上や社会に良い影響をもたらす取組みを進めていきたいと思っています。自社内の活動だけでなく、SAP SE社やマイクロソフト社のようなパートナー企業との共創や、お客さまとの共同イノベーションによる研究開発プロジェクトなども推進していきたいです。企業として持続可能性の課題に取組み、より良い社会を築く手伝いをすることが私の目標です。技術によって、自然や社会が持続可能な方法で共存できる未来を実現するために、リーダーシップを発揮していきたいです」