普段はあまり意識することのない「インフラ」という存在。水、電気、通信、交通など、私たちの暮らしを下支えするインフラの重要性は、皮肉にも何か事故が起こってから、初めて実感するものです。
「2021年10月、和歌山市内の水管橋が崩落した影響で、市内の4割近くにあたる6万戸が断水しました。水道が止まることで、どれだけ困った方がいらっしゃったか。橋を通れなくなることで、どれだけの人が不便を強いられたか。インフラは一度止まると本当に多くの人の生活に影響を与えてしまうんですよね。だからこそ、インフラの点検は止められない」(柴田巧、以下同)
和歌山の例に限らず、高度経済成長期に急速に整備された日本のインフラは、50年以上経過して、老朽化の課題が深刻化。それに伴い、定期的なインフラ点検の重要性もまた、増しています。
「全国にある橋梁、鉄塔などの点検費用を調べると、年間300億円ほどのコストがかかっています。修繕まで含めると、約1兆円。これから日本には人口減少の時代が訪れます。税収が減ることで点検にコストをかけられなくなるでしょう。また、点検できる技術者も高齢化していきます。だからこそ、私たちはドローンで点検業務の効率化に挑戦するのです」
インフラ老朽化問題を解決するべく、柴田さんの熱い志から立ち上がったのが、ジャパン・インフラ・ウェイマーク。この会社の事業は、人材不足のインフラ点検業務をドローンでサポートしようというものです。
例えば橋梁の場合、高さのある橋脚を点検するためには、足場を組んだり、リフトを利用したり、ロープで吊るしたりして、点検者が橋脚を目視するのが一般的でした。しかし、これらの方法は手間がかかるだけでなく、危険も伴います。
「これらの作業をドローンで行うのが、私たちの取り組みです。米国企業と共同開発した機体『Skydio J2』は、上下に3つずつ搭載したカメラが人間の目のように対象を認識することで、障害物にぶつからないように自動運航することができます。GPSが受信できない橋の下のような環境でもオートマティックに障害物を避けながら運航できる唯一のドローンなので、それまで難しかった橋の裏側の点検も可能になりました。点検対象に近づいてそのままカメラで撮影すれば0.05ミリのクラック(ひび割れ)も判別できます。着陸した後には自動的に撮影データをクラウドにアップロードして、点検帳票も作成するため、点検プロセスの最初から最後までを効率化することができるのです」
創業3年で6400設備の点検実績(2022年6月時点)は、国内最大規模としてMM総研大賞2022に輝きました。急成長の原動力になっているのは、代表取締役社長を務める柴田さんの社会課題解決への想いです。
ジャパン・インフラ・ウェイマークの誕生は、もともとNTT西日本に在籍していた柴田さんが当時の社長に新規事業をプレゼンしたことに端を発します。
それ以前に、米国へ赴任していた柴田さんは、カリフォルニア州のモハーヴェ砂漠に立ち寄った際に一面に広がる発電用の風車を見かけ、感銘を受けたそうです。
カリフォルニア砂漠の風力発電所
「もう、すごい数の風車が並んでいるんですよ。何のためかと聞くと、地球環境を守るためだと。米国には本気で環境を良くしたいと考えていて、大きなスケールで実行に移しているエネルギー事業者がいたんですよね。僕ももっと大きなスケールで、世の中を良くするための取り組みをしたいと思ったんです。やはり、NTTがやらなくてはいけないのは社会貢献。地球環境やサステナブルな社会のためになるようなサービスを立ち上げたい。そんな想いを抱いて日本へ帰国しました」
帰国後、NTT西日本で事業開発の任に着いた柴田さん。そこで知ったのが、ドローンと日本のインフラ老朽化の問題でした。
「ドローンを使って何ができるかを考えたら、やっぱり社会課題の解決でした。いろいろと調べている中でインフラ維持管理の課題にぶつかり、当時在籍していたNTT西日本の100カ所の設備でドローン点検のトライアルをしました。それが、すごい効果を発揮したんですよ。鉄塔だと約60%、管路は約80%の作業時間削減につながる設備もありました。金額にして5年間で2億円の削減につながるという結果に。同じ悩みを抱えていた自治体でも同様の取り組みを行ったところ、年間4億円以上のコスト削減につながる試算ができました」
他のインフラ事業者や自治体にもヒアリングすると、やはりインフラの維持・管理に困っているとの声。それらの検証に基づいて、前述の通り、柴田さんがプレゼンテーションをしたドローン事業は見事採択され、ジャパン・インフラ・ウェイマークが誕生しました。
起業の際は自らがパネルに描いたドローンビジネスのビジョンを見せてプレゼンを行った。描かれているのはNTTの
局舎がドローンの発着基地になる構想
柴田さんはあえて、ジャパン・インフラ・ウェイマークという社名から「NTT」の冠を外したそうです。その背景にはSelf as Weに通じる、柴田さんの思いがあります。
「インフラ点検の領域は競争ではなく協調するべき領域だと考えています。各企業がそれぞれ点検システムを実装するよりも、協力して最も効率的かつ経済的な仕組みを社会実装していくべきですよね。だからこそ、NTTグループではあるけれど、『NTT』の冠を外して社会の公器としてのスタンスを示したかった。
いずれは日本だけでなく、グローバルで展開していきたいです。米国、インドなどさまざまな国で、Webアプリで設定した時間にドローンが飛んで、帰ってくる。そんなシェアリング・ドローン・プラットフォームというべき存在を私たちはめざしています」
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